fujii7 Diary

fujii7の備忘録

にいがた新バスシステムの混乱

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出典:新潟交通Web http://www.niigata-kotsu.co.jp/new/150907_oshirase.pdf


 “God is in the detail”. ――「神は細部に宿る」。

 この言葉は、20世紀を代表する独出身の建築家・Ludwig Mies van der Rohe(ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ)の言葉だそうです。


 わたしは、この言葉を聞いて、曲解かもしれませんが、どんな論文などの執筆でも、業務でも、細部にこだわって――といいますか、粗いものにはしないで――きました。当たり前なのですが、一言一句、気を抜かず、こだわってきたつもりです。たとえ、論文にあるグラフのデータフォントの大きさすらも。

 いまさら、あらためて気づいたことなのですが、新潟市の新しいバスシステムでは、この言葉を忘れたかのようなことを感じさせます。決して、きょう一日、ICカードシステムの不具合による運賃収受なしの件ではありません。つまり、画像として掲載したできごとではないのです。

 それは、基幹系統であり連接バスも投入されている「萬代橋ライン」での運賃収受のことです。

 連接バスは、ドアが前・中・後と3ヶ所あります。萬代橋ラインでも中扉・後扉乗車、前扉降車の運賃後払い方式で、運賃後払い方式は新潟交通の路線バスでは全路線で採用されています。

 運賃収受を確実にしなければビジネス(乗合バス事業)としては成り立ちませんから、言うまでもなく運賃収受を確実にすることは重要なことです。ですが、バスのような車内精算では、なるべく短時間で多くの利用者の運賃収受を捌かなければ、バスのダイヤが乱れてしまいます。これも当たり前です。だからこそ、現金の両替や運賃確認をしないで済むICカードが便利なのです。

 鉄道のICカードでは自動改札のメンテコストや人件費の削減の面からしかICカードの効果はありませんでした。まぁ、キセル乗車撲滅や電子マネーの効果もありますが、これはあくまで副次的、というより、そもそもキセル乗車はやっちゃならんことですが。

 バスのICカード化には運賃収受場面の時間短縮効果も加わるわけです。「ピッ」とタッチすれば運賃精算ができる。利用者には小銭を用意しなくても済む、運賃を確かめなくてもよいという鉄道ICと同じメリットがありますが、事業者(バス会社)側には、導入コストは高いものの、運賃収受の確実性を維持したまま、バス停での停車時間の短縮につながる、ダイヤが乱れにくい効果もあるわけです。ICカードを入れたからといって、すぐに直接的な利用者増につながるわけはありません。ただ、利用者減を抑制できるかもしれない。そんなレヴェルです。

 さらに、多くの利用者を一気にドンと輸送するのであれば、「均一運賃」となるわけです。隣のバス停まででも終点のバス停まででも運賃は同一。経済学的には距離に応じた運賃にしないというのにはクビを傾げてしまいますが、それでも運賃収受の時間短縮を貨幣価値に換算したりすれば、こちらの方が効率的、合理的というわけです。

 新潟交通でも均一運賃の市内線では以前、前扉乗車、後扉降車の運賃先払い方式が採られていました。郊外線では距離制ですので後扉乗車、前扉降車の運賃後払い方式で、新潟市内では両方式が混在していたわけです。たとえば、市役所から万代シテイに行くにも、市内線のバスなら前扉から乗り運賃前払い、郊外線のバスなら後扉から乗り運賃後払いだったわけです。

 いつの間にか、均一運賃の市内線でも郊外線と同様に後扉乗車、前扉降車の運賃後払い方式に変わりました。

 5日から始まった新しいバスシステムの基幹をなす「萬代橋ライン」でも、従来通り、後扉乗車、前扉降車の運賃後払い方式が採られています。ですから、連接バスが来ても「中扉・後扉乗車、前扉降車の運賃後払い方式」なのです。当然、降車に時間がかかるのは誰の目にも明らかです。だって乗車は2つの扉からなのに、降車は1つの扉ですから。だから、その対策として定期券ICカードの保持者用の小型精算器を前扉につけました。「神は細部に宿る」、まさに、対策はしていたわけです。

 しかし、残念ながら、細部へのこだわりを間違えたようです。
 わたしが担当者なら、自分のクビをかけてでも萬代橋ライン」と市内線の「C」系統は、前扉乗車、中・後扉降車の運賃前払い方式に変更することを強く訴えたでしょう。仮に「萬代橋ライン」が、バス高速輸送システム=BRT(Bus Rapid Transit)というなら、バス停での停車時間も短縮する方策を探って実行に移すのが、高速化の一里塚ではないかと思うのです。萬代橋ラインは、他の理由からもまだBRTとは思っていませんので、“仮に”という言葉を前置きしましたが、バス高速輸送システムと高速(Rapid)を名乗りたいならば、そういった「細部」にもこだわるべきだったと思うのです。

 せめて、萬代橋ラインだけでも前扉乗車、中・後扉降車の運賃前払い方式にする。こうすれば、乗り換え発生による不利益よりも、速さや便利さが認識できて、こんなにも新バスシステムが非難されることはなかったと思います。例えば、連接バスを入れている千葉幕張では、乗車前の車外で運賃収受をしている。つまり、車内では一切運賃収受をしないわけです。新潟の新しい連接バスでは車外運賃収受は無理だとしても、前扉乗車、中・後扉降車の運賃前払い方式に変えた方がよいのではないかと思うのです。

 マイカーに頼らず、高齢社会にも対応できた、地域の公共交通を持続させるためには、こういった公共交通システムの変革は、避けて通れません。このとき、大上段の枠組みは「まつりごと」が決めるとしても、細部はその道のプロフェッショナルが決めていく、そしてその細部にこそこだわりをみせる。「運賃収受方式を先祖返りさせない」というのがこだわりならば、それが萬代橋ラインにとって、利用者にとって望ましいことだったのかは、疑問を感じずにはいられません。

 あすには運賃収受が復活します。この一週間が本当の勝負です。現場の方々にはさまざまな対応で頭が下がります。外野からガヤガヤ言われて辟易していると思います。だからこそ、現場の方々には頭が下がります。

 ただひとつ。利用者に見捨てられたら「おしまい」、背水の陣だということだけは間違いないようです。